Brand : HELMUT LANG
Material : Cotton 100%
Color : Black
Size : XL
Model：175cm 65kg

HELMUT LANGは1980年代末から2000年代にかけて、ファッションにおける「ミニマリズム」を根本から書き換えた存在でした。装飾を削ぎ落としただけの“簡素さ”ではなく、軍服やワークウェア、日常のユニフォームといった記号を抽出し、高品質な素材とシャープなカッティングで再構築する。そのアプローチは、単なるスタイルではなく、現代社会における衣服のあり方を問い直すものでした。

本作が製作された1997年は、Helmut Langにとって大きな転換点を迎える直前の時期です。翌1998年にはパリコレからニューヨーク・ファッションウィークへの移籍を断行し、インターネット中継によるコレクション発表など、ファッションの常識を揺さぶる実験を次々と打ち出していきます。そんな革新の直前に生まれたこのシャツは、ブランドの思想が鮮明に宿る「インディペンデント期」の重要なピースといえます。

素材には100%コットンのベロアを採用。短毛で柔らかな起毛が光を含み、陰影をつくり出します。シルエット自体は胸ポケット付きのオーセンティックなシャツ型。しかし、その表面に漂う艶やかで触覚的な質感が、日常着に異質さを与えています。ミリタリーやデニムのように記号性の強い要素ではなく、あえてベロアという“ラグジュアリーに寄りすぎない素材”をシャツに落とし込む点に、Langらしい逆説的な知性が表れています。

ディテールも精緻に構築されています。深めにラウンドした裾は、タックインでもアウトでも成立するバランスを想定。カフスは二つボタン仕様で、袖口の開きを自在に調整でき、シルエットに動きをつけることが可能です。ボタンは控えめな光沢を持ち、ベロアのマットな質感とコントラストを描きます。縫製はイタリアの高い技術を背景に、極めてフラットかつ端正。全体として「シンプルだが、どこか違和感を残す」構造が徹底されています。

1997年当時のHelmut Langは、まだPradaグループの傘下に入る前。商業性よりもデザイナー自身の実験精神が色濃く反映されていた時代です。のちのPrada期に見られる洗練された工業的ミニマルとは異なり、どこか粗野で有機的なテクスチャーが混在しているのが特徴です。本作のベロアシャツは、まさにその過渡期を象徴する一着といえるでしょう。

着用すれば、体温を含んで柔らかく馴染み、光の当たり方で表情が変化します。日常に溶け込みながらも、ふとした瞬間に「違和感」として立ち上がる。その二面性こそが、Helmut Langの真価です。ブランドが提示したのは、特別な場のための服ではなく、日常を“モードの実験場”に変える服。その思想が、この1997年製の一着にも確かに刻まれています。

インディペンデント期のHelmut Langを象徴する資料的価値に加え、現代のワードローブにおいても十分に機能する普遍性を持つ一枚。シンプルにデニムやスラックスに合わせるだけで、他のシャツでは得られない奥行きをスタイルに与えてくれるはずです。

「日常に潜む違和感を、服という形で表現する。」
そのHelmut Langの哲学を、1997年の空気ごと纏える一着です。

Measurements：サイズ情報

表記 : 34（日本メンズM-L相当）
平置き採寸 : 肩幅49cm 身幅61cm 袖丈64cm 着丈79cm

Condition：商品状態

右袖ボタンが一箇所欠損しております。
その他年代物特有の着用感こそございますが、目立ったダメージのないコンディションです。

写真にてご確認ください。

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