Brand : Hermès
Material : Cotton 78%,Nylon 22%
Color : Mustard Yellow
Size : 54
Model：175cm 65kg

Hermèsのメンズウェアが、クラシックの重力から解き放たれた時代。
それを象徴するのが、このフィールドジャケットです。

ヴェロニク・ニシャニアンがHermès Hommeのアーティスティックディレクターに就任して間もない頃、彼女が最初に取り組んだテーマは「風」でした。
トラディショナルな構築性を保ちながらも、身体の動きに寄り添い、軽やかに、空気と共に生きる服。
この一着は、まさにその哲学の出発点を体現しています。



表地はコットンとナイロンをブレンドした高密度ツイル。
一見すると無骨な素材ですが、手に触れるとすぐにそれが誤解だと分かります。
滑らかでありながら芯があり、風を受けてわずかに形を変えるその質感は、天然繊維と化繊の理想的な融合から生まれるもの。
この時代のエルメスが目指したのは、単なる防風性や耐久性ではなく、「ラグジュアリーの軽量化」でした。
その思想は、フィールドジャケットというワークウェア的な原型に、見事なまでの知性を与えています。



デザイン構造もまた秀逸です。
ラグランスリーブで構成され、肩線を消したことで可動域を広げ、着る人の動作に追従するように布が流れます。
背面のシャーリングは、ウエストを自然に絞り込みながらも締めつけを感じさせず立体を形づくる。

フロントの比翼仕立てやスナップボタン、スイス製ririジップなどのディテールも、耐久性と洗練を両立させています。

そして、ドローコードの先に添えられたレザーのトグルパーツ
この一点に、エルメスというメゾンの矜持が凝縮されています。
「機能」は「素材」で語るもの。そんな職人たちの声が聞こえるようです。



そして何より、このジャケットの真髄は、内側に隠されています。
ライニングに配されたのは、エルメスの名作カレ《Vent Portant》。
ヨットが追い風を受けて海原を進む様を描いたスカーフで、そこには日本の“日の丸”の旗が翻っています。
この意匠は「風に乗る」というテーマのもと、文化や国境を越え、世界がひとつの風で繋がるという願いが込められている。
外側のフィールドジャケットが“陸の機能”を象徴するなら、内側のシルクスカーフは“海の詩情”を語ります。

このふたつの層がひとつの服の中で共存していること自体が、エルメスの創造哲学を如実に物語っています。



マスタードにもオリーブにも見える独特の色味も、この時代のエルメスならではです。
単なるアースカラーではなく、光の角度によって表情を変えるニュアンスカラー。
コットンが光を吸い、ナイロンが反射することで生まれる“内側から輝く色”は、染料ではなく織りの設計そのものによって成り立っています。
それはまるで、自然の中に潜む秩序を抽出したかのような精緻さ。



このジャケットには、ラグジュアリーの定義を刷新したエルメスの挑戦が息づいています。
それは、装飾やブランドの記号ではなく、構造と素材に宿る美しさで語られる贅沢。
「着る人だけが知る快楽」と「デザイナーと顧客の秘密の共有」というニシャニアンの信条が、内側のスカーフとともにこの一着に織り込まれているのです。


風が服を動かすように、服が人を動かす。
その循環の中でしか生まれない美を、彼女は知っていました。
この“Vent Portant”ジャケットは、ただのアウターではなく、エルメスという思想が最初に「風を纏った瞬間」の記録。

袖を通すたび、当時のアトリエの空気までもが感じられるような、比類なき存在です。

Measurements：サイズ情報

表記 : 54（日本メンズサイズL-XL相当）
平置き寸法 : 着丈 86cm 身幅 71cm 裄丈 92.5cm

Condition：商品状態

フロントスナップボタン付近にわずかなシミが見られます。


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