Brand : CHRISTOPHE LEMAIRE
Material : Wool/Cashmere
Color : Pink

クリストフ・ルメールというデザイナーが、ファッションという広大な領域の中で、いかにして「流行」という言葉から遠く離れ、自らの美学を研ぎ澄ませてきたか。

その足跡を辿る上で、2000年代後半から2010年代初頭にかけての「CHRISTOPHE LEMAIRE」名義のプロダクトは、非常に重要な意味を持っています。

1991年のデビュー以来、一度の休止を経て2007年に再始動を果たしたブランドは、この時期に現代のルメールへと通じる「抑制されたエレガンス」と「機能的な普遍性」を確固たるものにしました。今回ご紹介するこの大判の畔編みストールは、まさにその「第二の創生期」に産み落とされた、贅沢さと実用性を極限まで高めたアーカイブです。




本作を目の前にしてまず圧倒されるのは、その尋常ではない「糸の分量」と、それによって形成される立体的なボリューム感です。
一般的にニットストールといえば、防寒のためのアクセサリーという位置付けが主ですが、ルメールが作るそれは、もはや身に纏うシェルターのような存在感を放っています。


採用されているイングリッシュ・リブは、表目と裏目を交互に、そして深く編み立てることで、生地の中にたっぷりと空気の層を抱き込みます。

この構造が、冬の冷たい風を遮りながら体温を内側に留め、羽織るだけで全身が包み込まれるような安心感を提供してくれます。手に取った瞬間に感じる確かな重みは、決して着用者の負担になるものではなく、むしろ上質な天然素材だけが持つ信頼の証として、心地よい充足感へと変わるはずです。





そして、このストールの真の魅力は、その複雑な色彩設計に隠されています。

一見すると鮮やかなマゼンタピンクが目を惹きますが、よく観察すれば、そこにはホワイトや柔らかなベージュ、そしてトーンの異なる複数のピンクが一本の糸として撚り合わされていることに気づきます。
このメランジによる糸作りこそが、ルメールの色彩感覚の真骨頂です。
もしこれが単色の一枚であったなら、ピンクという色はあまりに主張が強く、着る人の個性を上書きしてしまったかもしれません。
しかし、ルメールは異なる色彩を視覚的に混合させることで、光の当たり方や周囲の色調に合わせて表情を変える、奥行きのあるテクスチャーを作り上げました。

これにより、ブラックやチャコールグレーといった暗色のコートはもちろん、ベージュやキャメルといった暖色系のアイテムとも喧嘩することなく、スタイリングの中に知的なアクセントとして溶け込んでくれます。




2010年代初頭、クリストフ・ルメールは自身のブランドを運営するかたわら、エルメスのウィメンズ・ディレクターとして、世界最高峰の素材と美意識を自在に操る環境に身を置いていました。

その経験は、自身のシグネチャーラインにも色濃く反映されています。
このストールに見られる、一切の装飾を排しながらも、編み目の立ち上がりの美しさや端の処理、そして4つのドットが配されたラベルの佇まいに至るまで、細部に宿る品格は、まさに当時の彼が追求していた「究極の日常着」そのものです。

現在ではブランド名が「LEMAIRE」へと簡略化され、よりミニマルで効率的なものづくりへとシフトしていますが、この「CHRISTOPHE LEMAIRE」とフルネームが刻まれていた時代の製品には、どこか作り手の熱量や、理想とする衣服の形を一歩ずつ確かめながら形にしていたような、親密な空気感が漂っています。




スタイリングにおいて、これほどまでに力強い助演を果たしてくれるアイテムは他にありません。例えば、無骨な表情を持つブラックのレザージャケットの上から、この肉厚なストールを幾重にも巻き付けてみてください。
レザーの「硬」とニットの「軟」、そして黒の「沈」とピンクの「浮」。

相反する要素が首元でぶつかり合い、調和することで、単なる防寒対策を超えた、造形的な深みのあるスタイルが完成します。
また、室内では大判のブランケットのように肩から羽織り、生地のドレープを楽しむこともできるでしょう。着用者の動きに合わせて、メランジの編み目が揺れ、陰影が生まれる。
その様は、まさにルメールが理想とする「動きの中で完成する美」を体現しています。



10年以上の時を経てもなお、このストールが放つエネルギーが全く衰えていない事実に驚かされます。

それは、クリストフ・ルメールが一時的な流行を追うのではなく、人間が本来持っている「心地よいものに包まれたい」という根源的な欲求に対して、誠実に答えを出してきたからに他なりません。
当時の情熱が封じ込められたアーカイブピースを首元に纏う。
それは、単に古い服を着るということではなく、一人の天才が人生の一時期に辿り着いた、美学の到達点を共有するということです。

ワードローブに一つ加えるだけで、冬が訪れるのが待ち遠しくなる。そして、何年、何十年と愛用し続け、いつか自分だけの物語をその編み目に刻み込んでいく。
そんな贅沢な体験を約束してくれるこの不朽のマスターピースを、ぜひあなたの日常の大切な一部として迎え入れてください。

Measurement : サイズ情報

平置き採寸: 全長 160cm 横幅 63cm

Condition :商品状態

裾に僅かなホールが見られます。写真にてご確認ください。

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