recollection vintage

2025/05/12 00:44





「私はいつも、完璧に合理的な服がどこか怖かった。少し不完全なものの方が人間らしいと思うの。」


90年代後半から2000年代初頭に、それまでチープとされていたナイロンをはじめとする化学繊維をラグジュアリーの舞台へと誘い、テクノミニマリズムでモードの最前線に立ったPRADA。それを率いた鬼才ミウッチャは2005年ごろのインタビューでそのように語っています。


なんて”天邪鬼”なの、ミウッチャ。



そうしたテクノミニマリズムのムードに乗って、数多くのラグジュアリーブランドでこぞって化学繊維に目を向けていたこの時期に、鬼才は意地悪なまでに逆走を図っています。











ある種、反動的なマインドから誕生した自然素材への回帰。機能美の延長ではない、素材に触れたときの感触や身体との親密な関係性、素材そのものが語るストーリーを見直したプロダクト。



この時期だけではありませんが、時折見せる機能と逆ベクトルに走るミウッチャの反骨精神的プロダクト。

なんて、おもしろいんでしょう。





レザーのカシミヤとも謳われるディアスキンを贅沢に使用したバルカラーコート。

しなやかで、指先に吸い付くように滑らか。レザーをこれだけふんだんに使用していながらも、革そのものが空気を含んでいるかのように軽く柔らかい着る人の身体に自然と馴染んでくれるレザーコート。



当時の流行的な装飾モリモリの過剰デザインではなく、ラグランスリーブの流れるようなショルダーラインに少し前振りな袖のフォルム、ほんのりシェイプを効かせたウエストラインに美しい縫製を乗せた主張のないデザインも、時代に逆行する天邪鬼。






ん、いや待てよ。文章を書きながら気づいたんですが、反骨心から機能性と逆ベクトルに進んでいるように見せていながらも、”着心地が良い” / "ガシガシ着れる” って、日常着としてのリアリティであって、それって実は”実用的”なのかも。ラグジュアリーと日常性って彼女がUOMO立ち上げの際から今に至るまで共通する哲学ですし、PRADAがラグジュアリーの定義を書き換えた時代に、その哲学を最も静かに体現していたのはこういう一着だったのかもしれません。

一着の服でそこまで思考させてくれるからこそミウッチャは鬼才なんでしょうね。好き。


初夏前にレザーコートのブログを書いている僕が一番天邪鬼なのかもしれません。




新北(@s.soichiro0211)