recollection vintage

2025/06/13 23:09



スーツ三大国には数えられないフランス。

それでもなぜだかフレンチ・テーラリングというものに首ったけなんです。


ごめんなさい嘘をつきました。

フレンチ・テーラリングだと随分と多くのものが引っかかってしまいます。

違うんです。その中でもごく一部です。ごめんなさい。


勝手な意見ですが、

チフォネリはゴージャス過ぎるし、

レノマはモダン過ぎるし、

ランバンはクラシック過ぎるし、

みたいな非常にわがままな好み(と言ってもそれらが嫌い、ではないです。言わずもがな、全て素晴らしいと思っておりますよ。)に基づいて好きなのが、まあ、セーヌ川を挟んだ二大巨頭です。


オレンジの方も好きですが、大好きですが、今回は左岸、ARNYSの方です。


大好きなんですよARNYSってブランドが。

もちろん、色々なプロダクトがございますが、個人的にはネクタイとシャツと(あの有名な)スポーツ・ジャケットとそれから、テーラード・ジャケットになります。


個人的にはやっぱりこれがフレンチ・テーラリングだなあ、と思うんですよね。

フィッシュマウス・ラペルとか、それくらいしか具体的な特徴はないんですけど。

それでも、高い構築性の上で表現される情緒たっぷりの遊び心にはいっつも心射抜かれちゃうんです。


ゆったりとしたフィッティングは大人の余裕が感じられ、決してだらしないとかそういうのではないですし、フロント・カッタウェイのかけ方なんてもう芸術的ですし、ポケットやボタンとかのディティールも面白いのが多い。

これこそエスプリってやつなんじゃなかろうか、と純度100%日本人の僕は思うわけです。


もはやこれは憧れとか願いに近いものだと思ってます。

だってこのブランドのおかげで建築が好きになりましたし、そこからファッションへ逆輸入みたいなものもありましたし。

謂わば恩人?恩ブランド?です。


そしてようやくこのジャケットのお話。

(でもそんなに語るところもないです。基本的には上述の通り、です。)


生地は霜降りグレー。

どっちつかずの曖昧なその色味こそフレンチである、とこれまた宣っておりますが、でも本当にフランス的だと思うんです。

これに淡い黄色とかピンクのシャツ着ちゃったして、敢えて同系色グラデーションのネクタイしちゃったりして、パンツはキザに白のコットンチノとか(もしシャツがオックスとかであれば)ジーンズとかにすれば(僕の思う)フレンチ・スタイルの出来上がりです。

フレンチって淡い色好きですし、合わせるの上手ですからね。尊敬。


フロント・ボタンは3つ。

段返りではないので上2つのどちらか、もしくは両方、お好きな留め方で。でも1番下だけ留めるってのもフレンチだよなあ、という楽しい煩いもございますね。

3B故にVゾーンは浅く、それでも幅の広いラペルがとても印象的。

のっぺり、って言うと悪い言い方かもしれませんが、良いのっぺり具合です。カーブド・ラペルってのも一役買ってます。


仕立ての良いところ、というので1つAMFステッチがございますね。

アメリカが生み出しイタリアが魔改造したドレス・クロージングにおけるディティールの1つ。

しっかりとラペル〜フロント・ラインに入っておりまして、生地が何ともセクシーな落ち込み方をしております。

この生地の落ち込み見るだけで興奮しちゃいますね。

良い仕立てと良い生地が同居しないとできませんから、これ。


さて、まあこんなもんかな、と終わろうと思いまして、最後にフラワー・ホールが開いてるかのチェック(癖みたいなもんです)をしたところ発見。

ボタン・ホールのステッチに違う色が混ぜられてます。オレンジ系の糸が。

それはフロント・ボタンの3つにも。

しかもこれ表からでも裏からでも見えないんですよ。生地の断面にいるので。


声にならない声が出ましたね。

驚きと喜びとその他諸々で。

神は細部に宿る、という建築家の名言やら、

見えない所にも気をつかう、という紳士のルールやら、

そんなもん軽々しく超えるような、常軌を逸したディティール。


ぁあ、そうそう、これだからARNYS大好きなんだよなあ、とヘラヘラしちゃいましたね。

僕もこれくらい異常性に満ちていたいものです。

日々精進。


以上、非常に長い独り言でした。

お目汚しを失礼いたしました。