recollection vintage

2025/07/02 20:20



セーヌ川を挟んだ右だの左だの、で例のオレンジ色のメゾンと並び称された、今はなき伝説"ARNYS(アルニス)"。

相変わらず通好みであることに間違いはないでしょうが、それでも数年前と比べるとグッと知名度が上がりましたね。

当店のブログをご覧いただいている皆様ならば言わずもがなでしょうが、今回そのブランドのプロダクトを揃えることができましたので、改めてお話をさせていただこうと、このブログを書く運びとなりました。



1933年に創業されたARNYSは2012年にその華やかな歴史に幕を下ろします。

前職の上司から伺った話では、対岸のオレンジ色は時代に合わせて変化していったのに対して、ARNYSは良くも悪くも伝統的でその姿勢を崩さなかったから、だとかなんとか。

それでも、100年近くも先に生まれたオレンジ色とタメを張るくらいに評価されたのですから、やっぱりすごいもんです。

それにそういった姿勢を貫くことがどれだけ難しいか。

結果論でしか語れませんが、素晴らしい死に方。有終の美を飾る、とはこのことかもしれませんね。



貴族的であり保守的と言われる右岸。

対して左岸は前衛的で文化的と言われます。

確かにソルボンヌ大学があったり、モンパルナスが近いことから、コルビジェ(彼がいなかったらあの名作は生まれなかった、と考えると感謝しかないですね。ありがとうございます。大好きです。)や、ピカソ、ヘミングウェイ、コクトーら様々な芸術家がARNYSの顧客として名を連ねています。

いやぁ、こうして並べると錚々たるメンツです。みーんなレジェンド。



逆説的ではありますが、そんなセンスバチバチレジェンド芸術家達が通った、となれば、そりゃあもうアイテムもさぞイケてるんだろう、というなんともみっともない根拠立てですが、実際ARNYSのプロダクトはかなり前衛的。

デザインも生地も、そして何より(個人的に一番の推しですが)カラーリングのセンスが頭抜けています。



元々フランスなんて色づかいが巧みなお国であることに間違いはございませんが、その中でも特にARNYSの色彩感覚は常軌を逸したレベル。

HERMES(もう一々オレンジ色って呼ぶのが煩わしくなったのでちゃんと言います。)ももちろん美しい色づかい。

でもARNYSのはなんと言うんでしょう、超攻撃的な配色。誰もやってこなかったような、でも一度目にすればすんなりと納得して魅力的に映るような。

まあそこが前衛的と言われる所以の一つでしょうね。



他の一部フレンチ・テーラリングにも言えることですが、ARNYSのプロダクト、特にジャケットやアウター類って大きいんですよね。

大抵がオーバー・サイズ。

でもだらしないとか、そういったマイナス的なイメージは全く無く、むしろ大人びたゆとりのようなものが感じられるんです。

考えられる理由は様々ございますが、きっと大きな理由としてはナポリ仕立てが多いからでしょうね。

多くのテーラード・ジャケットは"肩で着る"と言われますが、ナポリ仕立ては"首で着る"ものが多く(もちろん例外もございます。)、それ故にARNYSは首を起点に丸く落ちていくようなシルエットで、むしろ肩は落として然るべき、とまで考えています。



もちろんそれが成り立つのは卓抜した技術力があるからこそ。

高い構築性の上で、表現豊かな遊びを入れる。

随分とまあハイレベルなことをやってくれています。




今回はアウター類メイン。

どれもARNYSらしさたっぷり。

一見シンプルに見えて、ぁあ、こんなとこで遊んでやがるな、なものから、一瞥しただけで意匠性たっぷりのものまで。

ベーシックでクワイエットなHERMESと違い、どんなアイテムに関しても一目見てわかるARNYS。

僕らのようなファッション・ジャンキーには堪りませんね。

あぁ、素晴らしい。大好き!最高!